事故現場に戻ると、野次馬はほとんど帰っていて、
ワゴンに乗り合わせたドライバーと、その他数名、
そして怪しげな通訳が、残っているだけである、
この時、事故発生から約15分が経過、
しつこいようだが、私はここまで来てもなお、
「最高級に上質で美味しいインドマグロ」の事は、
(事故責任自己責任、2参照)
頭の中にしっかりと、最優先事項として存在している、
雨が降ろうが、槍が降ろうが、私はマグロを食べたいのである、
事故を起こしたから諦めると云う、選択肢は私には無い、
事故は事故、マグロはマグロ、別件である、
頻繁に腕時計を確認し、
「まだ間に合う、まだ食えるぞ、」そう心の中で呟き、自分を励ましていた、
これから始まる事故後の交渉が、円滑に終わるならば、
充分に閉店時間には間に合うと判断、
早速、気を引き締めて交渉開始、
「ドウシマスカ?ケイサツヨビマスカ?」
「あなた方の方が、良く解っていると思うけど、
警察を呼べば、お互い無駄な時間とお金がかかる、私はツーリストだ、
時間は限られているし、充分なお金も無いから、警察は呼びたくない、」
「ハイ、ワカリマスケイサツメンドウネ、」
「まあここは、サマサマ(インドネシア語でお互い様)と言うことで・・・、」
「ノー!!ソレハダメネ、クルマコワレテルヨ!!」
車体に傷が付いていると、通訳は指摘するが、
オンボロ過ぎて、どの傷か全く解らない、
「あぁ・・・、そうだけどさ、それを言ったらオレのバイクも壊れてるよ、
どっちかって言ったら、俺のほうが壊れてないか?見れば解るでしょ?
しかも俺は怪我してるじゃないか、病院だって行かなくちゃいけない、
(病院に行く気は無いが、袖をめくって生々しい傷口をアピール)
第一、 そっちが無茶な運転してるんだしさ、
ヘッドライトだって点いてないじゃないか、おかしくないか?」
「ノー!!アナタノウンテンアブナイネ、アナタワルイヨ!!」
「はぁ!?何言ってんの!?」
「アナタスピードダシスギ、コレヨクナイ、ワタシタチワルクナイ、」
「私たちって、お前関係ないじゃん、
通訳してもらえるのはありがたいけどさ、あくまでも第三者でしょ?
スピード出し過ぎって、何だその漠然とした理由は!!アホか?!
スピード何キロ出してたか解るのか?あぁん!!
どう考えたって、あのドライバーが悪いに決まってんじゃないか!!
無灯火だぞ、無灯火!!明らかに強引な右折進入だろ!!
あなたも見てたじゃないか、なあ?そうだろ??」
「ノーノーノーワタシハソノママヲイッテイルダケデス、ジジツデスジジツ」
「こんの野郎〜!!あ〜イライラする〜!!
そもそも、あなたばっかり喋ってさ、ドライバーは一切喋って無いじゃんか、
おれはドライバーと話ししてんだよ、」
ドライバーは、もう関係ないもんね〜、そんな顔で、
残った野次馬たちと一緒に近くの屋台の椅子に座ってリラックスしている、
それに気が付いた私、「カッチーン、」頭にきた、
ドライバーの方に足を引きずりながら歩み寄り、
「おい、お前は事故の当事者なんだから呑気にしてんなよ、
今は、オレとお前の話をしてんだぞ、おい!!」
「ノーノーノー、」
私の肩を叩き、通訳がなだめる、
「ワタシハカレニ、スベテマカサレテイマス、ワタシトハナシマショウ、」
「この野郎〜!!なれなれしく肩触ってんじゃねえぞ!!
チンピラみたいな真似しやがって話になんねえよ、帰る!やってらんね〜!!!
痛い足を引きずりバイクにまたがり、帰ろうとすると、
「あれま?!鍵が無い???」
鍵は事故発生からバイクに付けたままだったはずが、
いつの間にか鍵が無い・・・、
それを見てほくそえむ通訳、勝ち誇った顔で一言、
「ノー、ニゲルノダメ、カギハアズカッテルヨ、」
「うへぇ・・・、」
「ドウスルカ?シュウリダイハラウカ?イヤナラケイサツヨブカ?」
「くっ、やられた、最悪だ〜、」
愕然とする私、完璧に相手のペース、はめられた、
警察を呼んだところで、罰金を払わされ、更に修理代も払わされるだろう、
なすすべなし、鍵も無し、八方ふさがり、参った、完敗、君たちに乾杯、
私の生活費は残り後わずか、
バイクの修理代もいくらかかるのかわかったものじゃない、
さらにここにきて、相手側の修理代まで払うとなったら、
残されたバリ島での生活は、贅沢はもちろんの事、日々の生活すら危うい、
トロピカルジュースと、キンパツ美女、青い海と、白い砂浜で贅沢すると云う、
「ウハウハ、バリ島贅沢計画」が頭の中でガラガラと崩れていく音がした、
贅沢が出来ないと云うことは、必然的に、
「最高級に上質で美味しいインドマグロ」も諦めなくてはならない事になる、
「あぁ、マグロが、トロピカルジュースが、キンパツ美女が、あぁ・・・、」
目の前が真っ暗になっていく、
先程までの怒りもヘナヘナと萎んでいく、
目眩がする、胃がキリキリと痛む、
「じゃあ、どうしろっていうんだ・・・、」
「クルマノキズノシュウリヲデスネ・・・、」
「いくら欲しいんだよ、金だろ、金、いくらだ、」
「サッキクルマノシュウリヤニデンワシマシタラデスネ、
ワンミリオンルピアカカルッテイッテマシタ、ハイ、」
「ワンミリオンルピア??100万ルピア!?ひゃくまんルピアだと!?」
「ハイ、ワンミリオンルピアデス、」
「くっくっく・・・、」
「ナニガオカシイデスカ?ダイジョウブデスカ?
アナタラッキーナヒトデス、ホントネ、
ワルイヒトハモットオカネクダサイッテイイマスヨ、
ホントウハモットモットシュウリダイカカルケド、、
ワタシタチヤサシイネ、ヒャクマンルピア、ヤスイデス、」
「くっくっくっく・・・、へ〜、安いんですか、良い人なんですか、ふ〜、」
怒りがフツフツと湧き上がってくる、
体が熱くなっていくのが自分でもよく解った、
100万ルピアと言ったら日本円にして約1万1千円程度だが、
日本の感覚で安いと思ってはいけない、インドネシアの物価から考えれば、
100万ルピアは相当な大金なのだ、
例を出すならば、
レストラン従業員が貰える1ヶ月分給料がおよそ50万ルピア程度、
警察官の場合、およそ100万ルピア程度、(罰金の副収入有り、)
救急病院の薬剤師の場合、300万ルピア程度、
ローカルフードの1品、例えばナシゴレンが5000ルピア前後、
1リットル入りのコカコーラ、ペットボトルが9000ルピア前後、
車及びバイク燃料用のガソリン、1リットル4500ルピア前後、
100万ルピアとはそれ程の大金、
どう考えても車の傷の状態からして高すぎる、
もしも、私がそこで「はいそうですか、」とお金を払い、
彼らが100万ルピア貰ったとしてもオンボロワゴンは修理しないであろう、
そもそもヘッドライトすら修理していないのだから、
ドライバー及び通訳のポケットマネーになるのは火を見るより明らか、
考えれば考えるほどに怒りは湧き上がり、頭に血が上る、
『おんのれぇぇこんのおにちくしょうがぁぁぁふざけんなよぉぉぉ・・・、
ひゃくぅまんるぅぴぃあぁだあぁ〜〜!!!
しかもぉ、しかもぉ〜、でんわもってるじゃぁなぁいですかぁ〜!!!!!
さっきまでは、でんわないっていいましたよねぇぇぇ〜〜〜!!!!
ゴゴゴッゴゴゴオゴゴゴッゴオゴオオオオゴオオオオ〜〜〜〜〜!!!!!』
許すまじ、このペテン師通訳、悪徳ドライバー、
しかし私は今、バイクの鍵を取り上げられ、味方は誰一人としていない、
彼らに逆らって、怒ってみたところで状況は悪くなるばかり、
絶体絶命の大ピンチ、どうする自分?
どうするんだ自分?
「あのなぁぁ〜〜!!!えっとなぁぁ〜〜!!!!!」
考えろ自分、良く考えろ!!
「イヤナラ、ケイサツヨビマショウカ?」
「プッチーン、」頭の中で何かが切れた、ショートした、思考停止・・・、
意図せずに口をついて出てきた言葉は・・・、
「あのぉ〜、えっとぉ〜、安くしてくれませんか?エヘッ、」
諦めてはいけない、サバイブしなければならない、
絶対に負けられない戦いがここにはあったのだ、(既に負けているが、)
「ウハウハバカンス、バリ島贅沢計画」の為に、
「最高級に上質で美味しいインドマグロ」の為に、
ここからプライドも何もかもをかなぐり捨てた、
必死で醜く情けない値切り合戦の、
プライド無き戦いの火蓋が気って落とされた、
続く・・・、